本研究は死の表象について、(1)国家ないし伝統の存続との関わりから表現された死、(2)個人の内面を投影して表現された死、(3)神話世界に取材して表現された死という3つの重点テーマを設定し、おのおのについて重要と思われる作品群から特定のものを選んで考究する。 本年度は、(a)3つの重点テーマを総合する形で「ラテン文学に見る霊魂と伝統」と題する論文(裏面参照)において、ある人物が生前に示した精神性の継承を「霊魂」の働きとして捉え、ギリシアと比較したとき、その働きの強さ、個人と国家の命運がパラレルをなした形での詩作の不死性、「ローマ人」の伝統形成といった点にローマの特色があることを指摘した。 また、重点テーマ(1)をめぐって、(b)ウェルギリウス『アエネーイス』に現われる「葬礼」のモチーフについて「永遠の記憶」「復讐」といったモチーフとも関連させつつ、作品全体の文脈に照らして検討する一方、(c)カエサル『ガリア戦記』において、生死を賭けた戦いでの「蛮勇」と「真の武勇」の相違が巧みに表現されていることを観察した(裏面「図書」参照)。 加えて、重点テーマ(3)をめぐっては、博士学位論文「オウィディウスの神話語り-手違いの詩歌-」(京都大学:2010年1月25日学位授与)としてまとめた中に、パエトーン、プロクリス、ピレーモーンとバウキスなど、主人公の死をめぐる表現について考究した。
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