本研究は、ボヘミアとシレジアというふたつの多言語地域の文化環境にかんする学知の集積状況そのものに注目し、そうした歴史的展開を冷戦期、さらには1990年代以降の中欧地域の政治的・社会的なコンテクストに照らしながら、比較検討をおこなうものである。そのさいとりわけ、専門家による文献的研究が、展覧会、講演会、出版・放送メディアなどをつうじて、社会へ接続可能な文化資源へと変換されている現状の解明に重点を置き、また、両地域を比較対照によって、ドイツ-チェコ関係およびドイツ-ポーランド関係という、それぞれ固有の歴史的条件に規定される差異の側面を確認するとともに、中欧の多言語地域に共通する問題の位相を明らかにする。以上の分析により、多言語地域研究に関する学術情報が文化資源へと転換・活用されている実態を全体としてとらえ、文学研究がはたしうる社会的役割の可能性をも検討する。
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