1.ベートーヴェンとショパンのサンドへの影響についての研究を「ジョルジュ・サンドと音楽家たちベートーヴェンとショパン」(『近代』101号に掲載予定)にまとめた。この論文では、先行研究をふまえつつ当時の流行であったべートーヴェン崇拝からサンドがショパンの影響のもとに徐々にモーツァルト派へと移行したことを書簡等から検証した。さらに、上記論文は今まであまり顧みられることのなかった『Impressions et souvenirs』等の分析をとおして、作家の想像力に与えるショパンの音楽の影響や典型的なロマン主義的音楽家像の形成過程に迫ることができたという点で重要な意味を持つと思われる。サンドのフィクションにおける音楽家像の研究は継続中であり、来年度前半には論文として発表する予定である。 2.当初予定していたダグーの音楽家像研究の継続は、資料分析の都合により来年度に回し、かわりに、来年度行うはずであったサンド・ダグーと当時の空想的社会主義思想との関わりについての研究を進め、その一部を「きたるべき社会と芸術家の役割サン・シモン主義者たち、ラムネ、ルルーの芸術観」(『国際文化学研究』31号)として発表した。本稿はラムネの『Esquissed'une philosophie』やルルーの「Aux artistes」のように20世紀にはほとんど忘れさられていた文献を取り上げ、「芸術家、特に音楽家の社会的位置づけ」という観点から論じた点に大きな特色と意義があると言える。 3.平成20年9月米国カリフォルニア大学サンタ・バーバラ校でのシンポジウムで小説『緑の貴婦人たち』についての研究発表(今回の研究課題と直接結びつくものではないが、作品中の劇に出てくる音楽の役割やルルーのユートピア思想についても触れた)を行うとともに、アメリカやフランスにおける最新のサンド研究に関する情報交換を行った。
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