研究概要 |
本研究は、フランス15・16世紀の世俗劇に関して、愚者ないし道化のトボス、聖・俗の関係性、そして認識論の三つの領域にまたがる視点から光りを与え、転換期の文化の一翼を担ったフランスの演劇道化の知のあり方を聖と俗の枠組の中で解明しようとするものである。そのなかで研究2年目の平成20年度はまず、初年度からの継続として、本テーマの基盤的部分をなす原典研究にあたり、道化(的人物)の言説に表れた知の形式が聖と俗との関係性においていかなるものであるかという観点から、テキストの解読・分析・考察を行った。対象としたのは、(1)Recueil general des sotties,3vol.ed.E.Picot;(2)Recueil du British Museum;Recueil Cohen;Recueil Trepperel:les farces;(3)Moralites francaises,3vol.ed.W.Helmich;Recueil de sermons joyeux,ed.J.Koopmans;他から、道化ないし道化的人物(sot,fou,badin)を含むテキストである。 またこの作業と並行して、すでに行ったテキスト分析から得られた結果を視野に入れつつ、そうした演劇道化の知のパラダイムがどのようにして形成されたのかを、道化をめぐる認識論の歴史の中に探った。古代から中世、ルネサンスに至るまでの道化に関する認識観を哲学、神学、文化、文学、社会等の様々な分野に調査し、聖と俗の視点から考察した。その過程で、聖と俗の関係を、まさに古代(神話)・中世(祭儀)の伝統に遡ることによって、その演出と演技において探求した、20世紀の演劇道化集団ともいうべき<演劇実験室〉の主宰グロトフスキーを取り上げ、その概念構想を解明した。この成果は《Sur la relation acteur/public dans la notion de《theatre pauvre》de Jerzy Grotowski》と題し、11月に筑波大学で開催された国際研究集会《Les liens du peu》にて発表。
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