研究概要 |
「文学の場」とは,作者が作品を創作する場,および,鑑賞者(聴衆/読者)が作品を享受する場のことである。この場合「場」とは,空間的場所を指すと同時に,社会システムの中における場,およびその人間関係をも指す。 ロベール・エスカルピRobert Escarpitはその著『文学の社会学』Sociologie de la litteratureの中で,文学活動,すなわち作者による作品創造,伝播,鑑賞者(聴衆/読者)による作品の鑑賞・享受を生産-流通-消費のシステムにおいてとらえ,時代および地域によるその変遷や種々相を文学社会学の研究対象とした。本研究ではそのエスカルピの枠組みを参考にし,フランス中世における作者の社会的立場,写字生による写本制作の実態,聴衆/読者による作品の鑑賞・享受の実態を明らかにすることを目的とする。 (1)写本制作の実態の解明 パリ,フランス国立図書館等所蔵のフランス語中世写本をできるだけ多く調査する。そして各羊皮紙写本において,テクスト本文以外の朱見出し(rubrique),エクスプリシット(explicit),および欄外書き込みなどのパラ・テクストを手がかりに,フランス中世写本制作の実態に迫る。 (2)文学作品鑑賞の実態解明 フランス中世の文学作品は,いつ,どこで,誰によって,どのような機会に歌われたり,上演されたり,朗読されたりして,聴衆/読者(鑑賞者)に受け渡されたのかを,(a)シャンソン・ド・ジェスト(武勲詩),(b)ロマン(物語),(c)ファブリオおよび『狐物語』などのジャンルごとに明らかにする。 (3)上記(1)および(2)で得られた結果をもとに,フランス中世文学のジャンルの問題と,創作-伝播-鑑賞の形式との関連を明らかにする。
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