平成19年度の計画を予定通り実試した。まず、文献収集として『初期在北米日本人の記録』(文生書院)の中から12巻を購入した。日系1世が築いた北米、特にシアトルおよびタコマ、またその周辺の日系人の記録を渉猟し、平成20年度に購入を予定している他の巻とあわせて、日系人のコミュニティ研究を継続する。また、11月3日から11月10日まで、米国ワシントン州シアトルで旧「日本街」の現況を調査し、あわせて資料調査をワシントン大学でゲイル・ノムラ教授の、また、日系新聞『北米報知』社では佐々木志峰記者の援助を受けて実施した。今回の調査で明らかなり、この分野の研究に新視点をもたらし、今後の研究のための大きな推進力となると思える成果として、以下のことがあげられる。旧「日本街」は戦中戦後にかけて、中国人の流入を受けてチャイナ・タウンと化したことまでは調査済みであったが、同時期にアフリカ系アメリカ人の流入も著しく、「日本街」に多大な影響を及ぼしたという事実の発見である。これは、現在のインターナショナル・ディストリクト、即ち旧「日本街」に多数のアフリカ系アメリカ人が見られること、ゲイル・ノムラ教授による貴重な研究上の示唆、シアトルの黒人史の専門家であるワシントン大学歴史教授クイナード・テイラーの講演、さらに現地で入手したテイラー教授の論文と著書に導かれたものである。シアトル旧「日本街」のアフリカ系アメリカ人の歴史は、アフリカ系アメリカ人が点描的にのみ描かれている小説『ノー・ノー・ボーイ』解釈にも新視点をもたらすことは必至である。その研究の一部をまとめた論文がAALA Journal(アジア系アメリカ文学研究会学術誌)に採択され、現在印刷中である。「日本街」における日系人とアフリカ系人との地理的文化的接触は、歴史、社会、文化、文学の研究において大きな意義と重要性をもつものと思える。
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