平成20年度の計画を予定通り実施した。まず、10月31日から11月8日にかけて、作家アーネスト・ヘミングウェイの生まれ故郷である米国イリノイ州オークパークにおいて、現地のオークパーク・アーネスト・ヘミングウェイ財団の協力を得て、ヘミングウェイと故郷の町の確執についてリサーチを行った。また、文献収集として昨年度に引き続き、『初期在北米日本人の記録』(文生書院)の中から新たに13巻を購入した。 オークパークにおける調査で明らかになったことは、オークパークは「オープン・ハウジング」(住宅販売・賃貸における人種および宗教上の差別撤廃制度)条例を1968年に採択し、これによって白人以外の人種や多様な経済階級の人々の流入をみていることである。先行研究においてオークパークは1974年にヘミングウェイを「許した」ことを解明したが、長年にわたるヘミングウェイと故郷の確執の原因はWASP中心コミュニティの道徳と宗教にあり、ヘミングウェイが「許された」背景にはオープン・ハウジング条例などによる人種・文化多様性の推進があったと判断される。日系アメリカ人の研究に関しては、今年度は文献を購入するにとどめた。ただ、昨年度のシアトル目系コミュニティ研究と今年度のオークパーク/ヘミングウェイ研究から偶然にもみえてきたことは、両研究は人種と地理の点においてかけ離れているにもかかわらず、両コミュニティと地元作家受容の歴史は1968年に再制定された公民権法および公民権法の制定にまつわる当時の社会変化による影響が大きいということである。これは今後の研究につながる発見である。
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