本研究は、アメリカン・ルネッサンス作家と同時代のヨーロッパ思想との関係性を綿密に分析、調査し、同時代のヨーロッパ思想から作家への影響を、その経路を特定したうえで明確化することを主な目的としている。その際、作家たちがどのようなコンテクストにおいて、ヨーロッパ思想にどう向き合ったのかも明らかにしてきた。 平成20年度は、エマソンとソローを対象に、重要な伝記的事実に着目し、作家がヨーロッパ思想をどのような経緯で知り、それに対してどのような考えを持ち、どう対処したのかを明らかにした。伝記的事実としては、(1)コールリッジやカーライルによるカント哲学の伝達、(2)エマソン、ソローによるダーウィン進化論の受容、(3)エマソンのヘーゲル受容、(4)ソローと経験主義哲学を中心的に扱った。(3)についてはロバート・ゴードンによる研究を参考にした。 成果発表としては、九州のエマソン、ソロー研究のリーダーである高橋勤氏と組み、日本ナサニエル・ホーソーン協会の九州支部大会でシンポジウムを行った。このシンポジウムでは、ホーソーンとメルヴィルのテクストにおいて、彼らが互いにヨーロッパ思想の知識をすり合わせていた形跡が読み取れることを示した。高橋氏とは、ホーソーンのソロー観、エマソン観について論議した。また、本研究で蓄積したベルグソンやメルロ=ポンティらヨーロッパ思想の知見を生かし、 "Stream(ing) of Musical (Un) Consciousness: Signifying Process against Definer's Community in Toni Morrison's Beloved" を発表した。
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