本研究の全体の目的は、第二次世界大戦後の人種差別問題をめぐる日系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人との共闘関係、および、それにまつわる諸問題を、主に日系側の視点から分析することにある。具体的には、第二次大戦を生き抜いた日系二世知識人が、アフリカ系アメリカ新聞に定期的に寄稿したエッセイの語りの分析によって、両グループの政治的、社会的、心理的な葛藤を明らかにしてゆく。その際、取り上げるのは、それぞれロサンゼルス、シカゴ、ニューヨークにおいてアフリカ系新聞に関わった作家のヒサエ・ヤマモト、言語学者のS.I.ハヤカワ、政治活動家のユリ・コウチヤマである。ヒサエ・ヤマモトについてはすでに昨年度で、資料収集、分析を終えているため、今年度は、ハヤカワと『シカゴ・ディフェンダー』関連の資料を主にUCLAのリサーチ・ライブラリーで補足収集し、基礎文献も読み込みながら、分析に着手している。ただし、論文にまとめる段階までには至らず、学会発表および論文刊行は、来年度に持ち越される形となった。また、ユリ・コウチヤマについては、新聞そのものが、家族で発行していたニュース・レターという極めて私的な刊行物であるため、思った以上に資料収集が難しいという現実に直面している。しかも、UCLAのコウチヤマのアーカイヴを所蔵するアジア系アメリカ研究センターの図書館が事故のため閉館になってしまい、重要な資料にあたることができなかった。ただし、センターの出版セクションで、コウチヤマの講演を記録したノートを手に入れることができ、また、コウチヤマとも接触のあるセンター・スタッフのメアリー・カオ氏に、コウチヤマ関係の資料収集の方法やコウチヤマ本人とのインタビューの可能性などについて、貴重な助言を受けることができた。
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