平成21年度は、3年目の総合として、フォークナーと中上健次の父権制社会に対抗する語りを、彼らのトランスナショナルな思考と絡めて、Global Faulkner: Faulkner and Yoknapawpha 2006(ミシシッピ大学出版)中の1章を構成する"The Global/Local Nexus of Patriarchy: Japanese Writers Encounter Faulkner"にまとめた。ここでは中上がフォークナーに影響を受けながらも、ポストモダニズム時代の作家として、父権制社会や国民国家的な法制度から逃れるために、合理的、総合的な結論に至る語りを避けること、それがフォークナーの場合よりもさらに意図的に行われることを明らかにした。父権制社会からの脱出をめざすフォークナーと中上の語りについては、さらに、漂流する主人公と彼が遭遇する共同体と外部の境界線上に位置する危険な女たちというテーマでも検証している。共同体、ひいては国家制度を超えようとする主人公たちと共同体の葛藤が、ジェンダーの伝統的役割や共同体の神話、伝説にも関与することについて、北京外国語大学で平成21年9月に開催された第4回International American Studies Associationの学会にて'"Dangerous Women' and the Nomadic Hero: Faulkner's Light in August Reconsidered through Nakagami Kenji"という題で研究発表した。さらに彼ら男性作家のトランスナショナルなものを目指す語りの戦略が、第3世界のチカーナ作家の語りにも応用できることを、「チカーノ/チカーナ文学の越境性-ローカルと普遍化のはざまで」(土屋勝彦編『越境の文学』)において示した。
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