フロベールの医学知識は『ボヴァリー夫人』の展開に不可欠であった。さらに19世紀医学界が面した諸問題を自然科学の領域に拡大した作品が遺作『ブヴァールとペキュシェ』である。フロベールは、ヨーロッパの自然科学の潮流に即し、それを先取りした文学を創造したのだ。また『聖アントワーヌの誘惑』全3版に見る「宇宙」場面の度重なる改訂は、49年版ではデカルトの二元論、56年版ではスピノザの一元論へのフロベールの傾倒を立証するもので、決定稿では、神話に依拠した啓蒙期以前の宗教秩序を、「科学を先取りした芸術」として刷新している。
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