古代ギリシアの喜劇の研究に関しては、アリストパネース『女の議会』の翻訳および解説、『ギリシア喜劇全集』別巻に所収されることになっている「ギリシア喜劇とジェンダー」の論文をすでに脱稿した。それらは2008年7月以降の全集刊行をめざしてもっか校正段階に入っている。 悲劇に関しては、科研費申請にさいして国際学会での研究発表を目標に掲げていた。ロンドンの古典学研究所(Institute of Classical Studies)が古代ギリシア・ローマ演劇の受容に関する国際会議(The Reception of Ancient Greek ahd Roman Drama Conference)を2008年6月11日から13日に行うことを知り、応募した。科研の研究テーマはジェンダー描出だが、この会議の趣旨や他の発表との関係から『日本におけるギリシア悲劇の受容』というテーマで研究発表を行うことになった。現在は、この発表に向けて資料の収集や演劇(舞台およびビデオなど)の実見を行いながら、発表原稿を作成している段階である。明治時代の川上音二郎の翻案劇、東京大学ギリシア悲劇研究会の1950年代末から1960年代にかけての上演、演出家の鈴木忠志、蜷川幸雄、宮城聡による1970年代以降のギリシア悲劇上演および彼らの演出と日本の伝統芸能である能・歌舞伎・文楽との関係を中心に述べ、さらに、2000年代以降、他の演出家たちも上演を試みていることにも触れる予定である。この研究発表はジェンダー描出を中心に据えた内容ではないが、この発表の試みを通して、実際の上演にかかわる多くの要素にも眼を向けることができるようになった。これを最大限に活かして、今後、このテーマを探求していく上でテクストだけではなく、実際の上演にともなう衣装、所作、首楽などの問題にも眼を向けていきたい。
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