昨年度から今年度にかけて、アテーナイ演劇だけではなく、古曲学全体におけるジェンダー研究の歴史を振り返り、最新の動向を述べ、未来を展望する論文を紀要に書いた。古典学とジェンダーの関係についての研究は我が国にはあまりないので、貴重である。この論文では古代ギリシアにおけるジェンダーとセクシュアリティの研究が1970年代から活発になり、21世紀に入った現在どのような動向にあるかを述べた。古代ギリシアの喜劇の研究に関しては、「ギリシア喜劇とジェンダー」という論文が昨年11月に刊行された『ギリシア喜劇全集』別巻に所収された。この論又ではアリストパネースのいわゆる「女もの」と呼ばれる三編の喜劇、つまり『リューシストラテー』、『テスモポリア祭を営む女たち』、『女の議会』を取り上け、服装倒錯とスピーチ(言語)さらにステレオタイプ(類型的描写)に焦点を当てて論じた。「女もの」三編においてはこれら三つの要素が相互補足的な関係にあり、最終的には祝祭へと収束するという結論を得た。また、アリストパネース『女の議会』の翻訳および解説を脱稿し、現在はすでに再校段階に入っており、今年中には刊行される予定である。喜劇に関してはまた、断片の翻訳も現在は仕上け段階に進みつつある。 以上のような喜劇作品と翻訳の仕事に携わるなかで、喜劇とジェンダーについての研究意識もますます先鋭化されている。さらに今年度の予定としてはかねてより執筆要請のあった『オデュッセイア』についての書物を完成させるべく、とくにジェンダーの観点から、これまで男性研究者があまり重視してこなかったぺネロペに光を当てて論じたい。
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