今回の研究のおもな成果は、アリストパネースの「女もの」3篇の喜劇におけるジェンダー描出についてである。これについて、服装倒錯と言語とステレオタイプ表現を中心にした分析を行い、その成果を2009 年に「ギリシア喜劇全集別巻」(岩波書店)で発表した。その内容を要約すると、アリストパネースのジェンダー表現はまず服装倒錯という手段によって視覚的観点から見て非常に顕著なしかたで表現される。また言語面ではとくに、猥雑な語あるいは語句の使用の有無や使用状況などに明らかな男女差が設定されている。そして女は酒を好み、食糧貯蔵庫から食べ物や飲み物をひそかに盗み出す、セックスを好むなどといったお決まりのステレオタイプ表現が頻出し、ひねりを加えたパラドクシカルな描出が観客の笑いを誘うことになる。
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