平成19年度は、この研究プロジェクトの初年度であるので、資料収集と文献リストの作成を中心に行い、九割方完成した。マカリズム(幸いの宣言)という文学形式について、ギリシア・ローマ世界における用例と、旧約聖書と古代ユダヤ教における用例を収集し、分析した。特に、旧約・ユダヤ教における用例には、知恵文学的な背景を持ち、倫理的勧告の文脈で使用されるマカリズムの系譜と、黙示文学的な背景を持つ、死後の世界における幸いを宣言するマカリズムのタイプが存在することが明らかになった。初期キリスト教では、使徒教父文書に前者のタイプのマカリズムが多く見られ、黙示録に後者のタイプのマカリズムが見られることを明らかにした(それぞれの研究成果を、論文の形にまとめた)。また、ギリシア・ローマ世界の知識人に向けてユダヤ教を再解釈した、独自のユダヤ人哲学者アレクダンドリアのフィロンの幸福理解を語学的・神学的視点から分析してみた。フィロンの幸福理解は、ギリシア・ローマ的マカリズム理解と旧約・ユダヤ教的マカリズム理解を有機的に結合しており、非常に興味深い。 次に、福音書中のマカリズムの分析をする準備作業として、イエスの語録資料(Q資料)におけるマカリズム(幸いの宣言)を語学的・釈義的に分析し、日本新約学会第47回大会で発表し、新約学者諸氏と意見交換をした。次年度は、マタイ福音書におけるマカリズムとルカ福音書におけるマカリズム、ひいては、使徒パウロのマカリズム理解の問題を考察したい。
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