本プロジェクトは、新約聖書の中に出て来るマカリズム(幸いの宣言)の全般にわたる聖書学的・修辞学的考察を目指している。平成19年度には文献収集と予備的考察として旧約・ユダヤ教におけるマカリズム(幸いの宣言)の考察を行い、知恵文学的マカリズム(幸いの宣言)と黙示文学的マカリズム(幸いの宣言)の2系列があることを確認した。平成20年度には、特に福音書文学に出て来るマカリズム(幸いの宣言)を個別的に分析した後に、それぞれの福音書の物語的文脈におけるマカリズム(幸いの宣言)の神学的・修辞的機能について考察した。平成21年度は、これらの考察を踏まえ、特に新約書簡文学におけるマカリズム(幸いの宣言)の性格を、聖書学的・修辞学的視点から考察した。 具体的には、パウロ書簡におけるマカリズム(幸いの宣言)とヤコブ書におけるマカリズム(幸いの宣言)とIペトロ書におけるマカリズム(幸いの宣言)をそれぞれ論文の形にまとめ発表した。パウロ書簡におけるマカリズム(幸いの宣言)は、旧約聖書の文学的伝統の継承から出発し、幸福概念を「信仰による義」という独自の神学的視点から考察し、神学的幸福論を展開しているところに特色があることが明らにした。 ヤコブ書におけるマカリズム(幸いの宣言)も旧約・ユダヤ教の文学的伝統を踏まえており、知恵文学的要素と黙示文学的要素が結合していることを明らかにした。ヤコブ書は、パウロとは対照的に、義とされるためには信仰だけでなく、信仰と業が必要であるという神学的立場から、知って行う者の幸いを強調していることに特色がある。 Iペトロ書におけるマカリズム(幸いの宣言)の考察おいては、迫害の厳しい状況の中にある信徒たちに対して、Iペトロ書の著者がマカリズム(幸いの宣言)を通して終末的な究極の幸いを宣言して、励ましを与えていることを明らかにした。
|