本研究は、19世紀中葉のルネッサンス期アメリカ文学を、従来活発に行われてきた人種・階級・ジェンダーという視点からの研究に、(文学的)ナショナリズムという視座をからめて考察するとともに、この時期のアメリカ文学・文化を多角的にパノラマ式に捉えてみようとするものである。初年度の平成19年度は、この時代社会・政治的基軸となる第16代大統領エイブラハム・リンカンの演説を中心に、彼の演説が共和国の理念やアメリカン・デモクラシーが直面した政治的・社会的矛盾を乗り越えようとする過程で、アメリカ国家形成およびナショナリズムの形成に重要な役割を果たしていることを明らかにした。次年度の平成20年度は、この成果をもとに、アメリカ文学との関わりを中心に検証した。その結果、ナショナリズムの延長線上に、アメリカ文化に深く根付いた帝国主義的要素が明らかとなった。最終年度にあたる21年度は、この考察をさらに深め、ルネッサンス期アメリカ文学において、人種・階級・ジェンダーの問題が、ナショナリズムや帝国主義的要素と奥深いところで密接に関連していることを、主として女性作家の作品で検証した。 上記の研究から、国家と民主主義を語る際のレトリックの問題が新たに浮上したが、今後の研究への大きな示唆となった。
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