フォルジャー・シェイクスピア図書館所蔵のフォリオの書き込みを調査し、とくに18世紀版本とフォリオへの書き込みの関係を示すデータを蓄積することで、明星サード・フォリオ・コピー(MR733)のような特定の版本との間に密接な関係が見て取れるような事例の相対化を図ろうとする本課題の2年目にあたる平成20年度では、同図書館にて、セカンド・フォリオ23冊およびフォース・フォリオ4冊のチェックを行った。いずれもオンライン・カタログHamnetによる事前検索で相当量の書き込みのあるコピーである可能性が判明していたものである。書き込みの転写にもとづく解析はマイクロフィルムの入手ができた6冊について21年度に継続しておこなうこととなるが、現地での閲覧できた範囲で、書き込み筆者の多様な関心のあり方や手法の存在を確認することができた。一方で、幕場割りとト書きの補充、テクストの校訂と注釈は、フォリオ全体にわたって書き込みを施す事例ではかなり共通してみられる関心対象であることが浮かび上がってきたように思われる。幕場割りとト書きでは、ポウプ本のそれに依拠している書き込みが多いとひとまず観察される。ただし、ポウプ本のそれは18世紀のポウプ以降の版本にも受け継がれているので、書き込みの底本がどの版であるかの判定には詳細な調査分析が必要である。 また、19年度からもちこしたサード・フォリオ(S2914Fo.3no.20)の書き込みの調査を、入手できたマイクロフィルムをもとに続行した。その結果、書き込みのほとんどすべてがポウプ本に依拠するものであることが確かめられた。成果は日本シェイクスピア学会での口頭発表と明星大学人文学部国際コミュニケーション学科の紀要に論文として公表した
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