研究初年度の目標は、本研究で取り上げる三人の作家のうちイルムガルト・コインについて集中的に取り組むことであった。コインについては次の2点に重点を置き、研究を行った。1.評伝の執筆2.大都市小説という観点からコインの作品を読み直す。1.に関してはすでに評伝を執筆し、今秋(2008年秋)に刊行される本に掲載される予定である。また2.に関してはまだ論文執筆に至っていないが、現在コインと同時代の作家(ケストナー、ファラダ、イシャーウッド、デーブリーン、バウム、テルギット:によるベルリンをテーマにした小説の分析を行っており、本年度中には論文としてまとめることを考えている。この二つの作業により、これまで日本ではあまり注目されていなかったドイツの女性作家を紹介することの重要性を改めて認識し、そのうえで大都市小説を扱った論考では、大都市の異種混淆性とジェンダーの係わりを提示することを目指している。 またその一方で次年度の研究の準備をすることが初年度の最後の目標であった。2008年度はフライサー研究を中心に行うことにしていたので、そのために3月にはフライサーの文学に重要な役割を果たすフライサーの故郷であるインゴルシュタットを訪ねた。当地のフライサー協会が運営するフライサーの記念館等も見学し、今後研究を進める上での足がかりをつかむことができた。 そのほか初年度は申請書にもあるように、都市論、メディア論の理論についても知識を深めたいと考え、これらの理論構築にも努めた。なかでもこうした作業を通じ、都市と写真とジェンダーの深い係わりを知ったことは大きな成果であった。これについても今後も考察を進めたい。
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