4つの公用語をもつスイスは、多文化の平和的共存の成功例としてよく知られている。しかし、スイスの現代作家たちは理想化されたスイスの「神話」に批判的な目を向ける。たとえばデュレンマットは、スイスにおいては4つの文化圏が互いに無関心に併存しているだけだと主張する。また、スイスの多文化主義の起源は建国の精神に求められ、建国神話(特にヴィルヘルム・テルの神話)はスイス軍の存在と深く結び付いて、スイス人のナショナル・アイデンティティを形成しているのであるが、フリッシュやビクセルは、スイス軍をめぐる神話がスイス人の「過去の克服」を妨げている点を批判している。
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