研究概要 |
ジョージ・A・バーミンガムのユーモア小説は軽くて深い意味がないとみなされがちである。しかし、彼が歩んできたキリスト教聖職者としての人生及びキリスト教に関する彼の著作と照らし合わせながら、時代を超え、国を越え彼の小説が持つ普遍的意義を証明することが本研究の目的である。例年通り、8月下旬にはダブリン大学トリニティカレッジ旧図書館に所蔵されてあるJ.O.Hannay Papers(バーミンガムの手紙、新聞雑誌記事、家族写真等)の調査に当たった。バーミンガムは1934年1月に、当時司祭を務めていた英国メルズの教会で、旧約聖書中の預言者イザヤに関する講話を行い、それがラジオを通して国中に流された。この講話を聴いた数多くの人々が勇気づけられ、彼のもとに感謝の手紙を出した。旧図書館に保管されてあるこれらの手紙を読むことにより、彼がいかに敬虔なキリスト教信者であったが実感できた。この調査に基づき、『スペインの黄金』(Spanish Gold, 1908)と『海の戦い』(A Sea Battle, 1948)を取り上げ、この2作品に現れたバーミンガムのキリスト教精神を学会で口頭発表し、短期大学部の紀要の中で論じた。 グレン・パタソンに関しては、8月下旬にベルファーストで実際に彼に会い、最新作『三次会』(The Third Party)を本人から入手した。今までのパタソンの小説は、北アイルランド紛争を描く一方で、未来への希望を描いてきた。しかし今回の作品は、北アイルランド紛争が終結した中で主人公の心の葛藤を描いた。これは北アイルランドは表面的には平静を保っているものの、実際には対立が根深く存在することを示唆しているのだろうか。さらに深く読むことにより、著者の意図を探り、本年10月の国際アイルランド文学研究協会日本支部大会で研究発表する予定である。
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