本研究題目のうち、「美」は文学性を、「聖性」は宗教性を指す。両者のうちとくに前者の「美」(文学性)は曖昧な観念であるため、本研究では敢えてその内実を、(1)審美観(2)修辞(3)詩語の三点に絞り、それらを集中的に考究している。 そのうちの(1)審美観(2)修辞については、前年度までに幾つかの論文にまとめて発表しているため、平成20年度は、(3)詩語を、重点的に検討した。まず、魏晋六朝において「美」と「聖性」とがもっとも純化されたかたちで交錯する文学を創造したのは謝霊運であることを確認し、ついで謝霊運の詩語「情」が、この時期の一般の用法とは異なって、著しく仏教的な色彩を帯びていることを跡づけた。その「情」を「美」へと昇華させる関鍵となる詩語が「賞」であり、「情」と「賞」の関わりの解明が、この時期の「美」と「聖性」の結びつきを知るうえでもっとも重要であることを知った。 そこで、まず台灣の国際学会で、謝霊運文学における「情」と「賞」に関する発表を行ったが、奇しくも学会主催者の楊儒賓教授も、思想史の面から謝霊運の「情」に関わる類似の見解を発表され、多くの有益な教示を得た。拙発表は、平成21年末に主催者側発行の『重探自然』と題する論文集に収録される予定である。また「賞」の語感をより確定的にとらえるため、六朝学術学会に要請されて「『世説新語』の「賞」」を発表した。さらに「李善注「事無高翫、而情之所賞、即以爲美」考」を『集刊東洋学』に投稿し、この5月の掲載が確定している。この3月には161頁にわたる本研究の報告書を刊行した。
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