本研究は、従来知られてこなかった近代中国書論を、各図書館・博物館の調査によって発掘し、文献学的な検討を加え、影印もしくは翻刻によって公開し、向後の書論研究の礎を築こうとするものである。本年度は、中国国家図書館・中国美術学院の協力により、恵兆壬『集帖目』、郭尚先『芳堅館書髄』、翁方綱『蘇斎論碑帖雑文』、陶濬宣『稜山論書詩』、銭泳『梅華渓居士縮本唐碑』などの書論文件を調査できた。そのうち、上記『集帖目』(国家図書館蔵)については、書誌データの記録とともに、披見部分(複印件提供部分)の翻刻を完了させた。この成果に加え、この本の逓伝や書論史的意義に関する検討も含め、中国近現代文化研究会第64回例会(2008年3月23日、大妻女子大学)にて口頭発表を行った。検討の結果、この国家図書館本は、徐康に伝わった恵兆壬の原稿をもとに抄録された可能性が高いこと、また『集帖目』は、金石学の目録学的性格が帖学に与える示唆を、恵自身が明瞭に自覚している点において、歴代の法帖著録の中でも特筆すべき位置にあること、などが明らかになった。今後は、上記の他の文献について検討を加えるとともに、薪たな文献の発掘に尽力する所存である。
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