本研究は、従来知られてこなかった近代中国書論について、各図書館・博物館の調査によって発掘し、文献学的な検討を加え、影印もしくは翻刻によって公開し、向後の書論研究の礎を築こうとするものである。本年度は、昨年度調査した恵兆壬『集帖目』(中国国家図書館蔵)についての検討を誌上発表する他、同じく昨年度調査の及んだ銭泳『梅華渓居士縮本唐碑』(中国美術学院蔵)や翁方綱『化度寺碑考』(京都大学人文科学研究所蔵)をもとに、翁方綱の碑学に関する書論について、集中的に検討を進めた。『集帖目』については、国家図書館本の書誌的データを確認するとともに、この抄本が作成される経緯と逓蔵を見通し、あわせてこの著録が金石学から帖学への影響を端的に示す、書論史的に見て極めて意義深い書論であることを指摘した。翁方綱の書論については、上記『化度寺碑考』その他、関連の唐碑・北碑に関する言説を材料に、彼が唐碑・晋帖中心の書品体系を築いていた様を院元との比較も視野に入れながら明らかにした。また本年度は、上海図書館の調査から、方若『校碑随筆』?徳葬眉批、端方『萄斎蔵碑跋尾』、張祖翼『磊盒金石跋尾藁』などの未刊・稿本の書論も閲することができた。これらの書論は、いずれも近代の碑学を窺ううえで、資料性の極めて高い文献と考えられる。次年度はこれらの書誌学的・書論史的検討を課題とする他、更に浙江省を中心に、本国での調査・発掘を進める計画である。
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