マハーバーラタともう一つのサンスクリット叙事詩ラーマーヤナは複雑に聯関してゐる。本年度はラーマーヤナの第7巻ウッタラカーンダの内容と構成を吟味調査し、マハーバーラタの形成に側面から光をあてることにした。ウッタラカーンダにはマハーバーラタ、もしくはその登場人物への言及ば見あたらないが、丹念な調査の結果、ウッタラカーンダの編者がマハーバーラタやハリヴァンシャの内容を意識しながら、それに対抗するかのやうに、マハーバーラタ的歴史観とは異るラーマ王家中心史観を提示する目的で、このラーマーヤナ第7巻を作成したといふことをほぼ明らかにすることができた。つまりラーマーヤナ最終巻が作られた頃にはマハーバーラタやハリヴァンシャの主要部分はすでに出来てゐたことになるが、このことは両叙事詩の相対年代論を考へる上できはめて重要な意味をもつと思はれる。また昨年度に引き續き、ハリヴァンシャとシュンガ王朝の関係について考察を進めたが、その結果スータ・ウグラシュラヴァスの語りを枠とするマハーバーラタテキストは、遅くともマウリヤ王朝期に成立し、ヴァイシャムパーヤナの語りを枠とするより古い同叙事詩テキストはおそらくマウリヤ王朝開始以前に成立したといふ結論に至ることができた。これらの研究成果を英文論文にまとめることを計画してゐたが、平成二十二年暮より入院生活を餘儀なくされたため斷念せざるをえなかった。マハーバーラタ成立年代の問題および両叙事詩の相互影響の問題は、できるだけ平成二十四年春頃までに論文にまとめたいと望んでゐる。
|