1)基礎研究(テキスト講読):本年度は第III部ナラヴァーハナダッタ(Nv)王子行状記の中盤部分にあたる、第7巻-Nvの青年期から結婚の経緯-のBKMとKSS、BKSSの三テキストを読み進め、分析の基礎データを収集した。2)関連文献・資料の調査と収集:KSSについては1本の写本を複写入手した。このKSSの写本は年代の特定など不明な点が多く、22年度にはまず写本の背景について調査する必要がある。また『カター・サリット・サーガラ』の著者ソーマデーヴァの時代背景についての調査に着手した。今後も10-12世紀のカシミール周辺の歴史について調査を進める。3)現存テキストの校訂:1)のテキスト講読と平行して、必要に応じてテキストの校訂作業を引き続き行う。 昨年度の調査で、カシミールの史書に15世紀のペルシャのムスリム達もBK(おそらくKSS)を好んで朗読していた記録があることが分かった。これまで進めてきた研究や現存する関連文献から、その構成・内容ともに粗略ながらBKMが典拠に忠実であるのに対して、KSSは章立ての大幅な改編がなされ、内容の矛盾も各所に見られる。時代・民族・宗教を超えて広く読まれ、後代の諸作品にも影響を及ぼしたKSSを著者Somadevaはどのような意図で改編したのか、宮廷詩人としてSomadevaが置かれていた状況についてもあわせて考えてみる必要がある。
|