基礎研究にあたるテキスト講読は、ナラヴァーハナダッタ(Nv)王子行状記をクシェーメーンドラ作『ブリハット・カター・マンジャリー』(BKM)とソーマデーヴァ作『カター・サリット・サーガラ』(KSS)、ネパール伝本である『ブリハット・カター・シュローカ・サングラハ』(BKSS)の三テキストを比較対照しながら読み進めた。 5月には、現在も研究協力者として参加している「多言語重層構造をなすインド文学史の先端的分析法と新記述(基盤A)」(代表者:東京外国語大学・水野善文)の定期研究発表会で、これまでの研究経過の報告を行う機会を得、中世・近現代の史学・文学・文化人類学などのインド学研究者より、様々な示唆を受けることができた。そこで得られた教示により、写本や関連資料に関する調査は、インド古典期から中世にかけての説話関連文献、主にプラーナ文献・プラーナ関連研究書を中心とした。とくに、プラーナ関連資料のなかでも、Harivamsa Puranaは、『ブリハット・カター』のジャイナ教伝本Vasudevahindiの成立を探る上で重要な役割を果たすサンスクリットテキストとなっている。平成22年度はこのHarivamsa Puranaテキストと関連資料の研究が主となった。 さらに、上記研究に加えて、『ニーラマタ・プラーナ』や『ラージャ・タランギニー』等のカシミール地誌・史書やその研究史にもあたり、詩人クシェーメーンドラとソーマデーヴァが活躍した11世紀の歴史的・政治的背景について考察した。
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