本研究の学術的背景は次のとおりである。四半世紀以上続いた内戦が終結したカンボジアが王国として再出発してから10数年が経ち、日本は、カンボジアの和平と復興のために協力を続け、現在でも援助の最大出資国となっている。政府レベルのみならずNGOによる支援、研究者によるさまざまな分野の学術的研究など日本人の活躍はめざましい。またカンボジアを訪れる日本人は外国人観光客数の中で常に首位を占め、日本人がカンボジアを知る機会は年々増えている。 しかし、カンボジアの国語、カンボジア語によって書かれたものが海外はもちろん、日本に紹介されることは非常に少ない。カンボジアへの援助、学術的研究を行う上で必要となる社会、文化、カンボジア人の考え方、価値観を知る上で非常に有用なカンボジアの現代文学について知る機会はほとんどない。 本研究では、そのような世界でも知られることの少ない、カンボジアの現文学作品を収集・翻訳することを第一の目的とした。カンボジアのプノンペンを中心に、20世紀初頭から現在に至るまでの現代文学作品(小説、およびエッセー)を収集し、個々の作品の内容を検討した。著作権に関しては十分に留意し、1970年以降の作品の作家や作家の遺族と著作権に関する書類を交わした。プノンペンでの調査・研究については、王立プノンペン大学人文社会学部国文科教員に協力をお願いした。 翻訳権の取得できた作品について、日本語への翻訳を行い、また作品をよりよく理解するための資料収集、作家へのインタビューを行った。同時にカンボジア国内での現代文学の動向を明らかにした。そのため国内外の現代文学研究者と意見交換するだけでなく、クメール作家協会に所属する作家や出版社、書店へのインタビュー、また文学賞や文学に関するテレビ、ラジオ番組にも留意しながら行った。 翻訳作品は、『現代カンボジア作家選』として紙媒体、電子媒体で公開した。
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