1.辞賦の研究: 前漢における辞賦の創作形態と受容形態について、再度検討を加えるとともに、後漢時期における各形態に関する記述を搜求して、後漢においては基本的に、口頭性よりも書記性が強まっていることを確認した。前漢時期においてすでに書記性が強かったことを論じる研究が近年発表されているが、こうした研究内容を詳細に検討することをとおして、それらが必ずしも妥当ではないことを考察した。この問題については、次年度以降さらに多方面から考究を加えて、論文にまとめ発表する予定である。 2.楽府詩の研究: 両漢の楽府詩を対象にして、楽曲の類別によって歌辞の形態が大きくことなることを確認した。具体的には、郊廟歌辞・相和歌辞・雑曲歌辞では斉言体が多く、鼓吹歌辞・琴曲歌辞では斉言体は少なく、逆に雑言、つまり長短句が多くなっている。この事実が何を意味しているかについて、楽曲が楽府詩において果たす役割と、楽曲と歌辞のもつ宗教性、民間歌謡との関連性等から考察を重ねて、後の五言や七言の定型詩の発生を考える際に大きな示唆を与えてくれることを明らかにした。 五言詩の発生については諸説があって、いまだ定論とすることは容易ではないが、六朝から唐代にかけての律詩や絶句形式の確立を考えるにあたっても、楽曲の類別による歌辞の差異は看過できない問題である。
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