1.辞賦の研究: 後漢における辞賦の創作形態と受容形態を、作品の序や史書の記述を心にして捜求した。後漢のどの時期から口頭性よりも書記性が一層強まるかを考察したが、明確な結論はまだ得られていないため、次年度も継続して研究を行い、前漢時期における創作・受容形態とあわせて考究し、かつ書記性が強まる要因をさぐる。 2.楽府詩の研究: 楽府詩を対象にして、楽曲の類別によって歌辞の形態が大きく異なることを確認し、それをふまえて五言詩の発生についての考察を進めた。具体的には後漢時期にその大部分が制作されたと考えられている「古詩十九首」を主な対象とした。これらの詩群には、時間の推移に対する悲哀感が顕著に表れていて、そのことはすでに多くの研究者が指摘していたが、なぜこの時期に増加するのかについては諸説があり、いまだ明らかになっていない。今年度の研究では、この時期の思想的背景からその原因を考究して、ひとつの仮説を提起した。前漢・後漢時期の考えが反映されている『太平経』は、天地の時聞に比して人間の時間が有限である点を強調し、さらに前代の人間の犯した罪を背負って人間が生まれてくると説いている。とすれば、時間の推移に関する悲哀感は、この時期に強く認識されている、有限の時間意識と、原罪意識に類似した観念とに依拠していると考えられる。かかる考えは、後漢の班固の文学作品である「幽通賦」にもりかがえる。
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