1.辞賦の研究: 辞賦は前漢時期においては、皇帝や諸侯王を主な読者対象としていたため、特定の読者の受容が目的となって、基本的には口頭性に基づいていた。前漢末から後漢にかけて、口頭性に加えて書記性が強まってくるが、それは後漢に入ってからの賦に序が附されることと軌を一にしている。読者が不特定になってくれば、序において作品制作の背景を説明しないと、理解が困難になるからである点を明らかにした。 2.楽府詩の研究: 前漢時期の楽府詩に関して、後世の宗廟歌に相当する「安世房中歌」が戻中歌と称されるように后妃との関係件を示しており、郊祀歌も年少の男子が歌った事実があり、後宮の女性が弦歌したように、いずれも女性もしくはそれに近接した者が関わっている。口頭性が強い時期に後宮の女性が辞賦を朗誦していたこを併せ考えると、辞賦と楽府詩とは共通点を持っていることが明らかになる。 3.漢代文学のとらえかた: 後漢の辞賦にも楽府詩にも、時間の推移に対する哀しみや嘆きが記されている。ゆえに、辞賦が口承性を希薄化していくにつれて、本来保持していた機能の一部を楽府詩が担うようになったと考えられ、物語詩的な楽府詩は辞賦の変質と関連性があると推測される。ただ、社会の底辺層には物語的な辞賦や楽府詩に類するものがあって、それが後の「桃花源記」と「桃花源詩」、唐代の伝奇と詩歌の関係に連なると想定すれば、漢代文学における口承性が後世に続く道程、さらには文学史の展開が理解しやすくる。
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