平成19年度には、以下の2点について研究を行った。 1.『史記』における歌謡と物語:『史記』には、項羽の「垓下歌」、劉邦の「大風歌」などいくつもの歌が引かれている。小川環樹「風と雲」や吉川幸次郎「漢の高祖の大風歌について」など過去の研究においては、作者とされる項羽や劉邦とのかかわりが注意されてきたが、これらの歌は、実際にはむしろ項羽と劉邦をめぐる伝承の中で成長してきたと見られる点があり、そこには口頭伝承の世界観が強く反映している。この点についての基本的な考え方は、本研究開始以前に口頭で発表していたが、『史記』の文学性にもかかわる重要な問題であるため、更なる資料収集と考察に努めた。成果は平成20年4月現在論文としてほぼ完成に至っており、近いうちに学術雑誌に投稿される。 2.辞賦文学とそれにまつわる物語:屈原・宋玉、さらには賈誼の作品にみるように、早期の辞賦作品は、常に伝説に包まれて伝えられてきた。賦につけられた序は、これまでは作品を読むための資料として、その史実性のみが問題とされてきたが、むしろその物語的内容が注意されるべきであろう。このような視点から、漢代の賦序とされるものを検討し、前漢のいわゆる賦序は実際には作者以外によって語られた物語の一端と見るべきこと、前漢末の揚雄が「自序」に自作の賦を収めて以後、後漢になって作者自身による説明としての賦序が出現することを明らかにした。成果は第七届国際辞賦学研討会・六朝学術大会例会において口頭発表したほか、平成20年中に「済南大学学報」に掲載されることが決定している。
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