平成20年度には、前年度の研究成果を、論文として国外の学術雑誌に発表した。まず辞賦の序をめぐる問題点を整理し、前漢までの賦序が前人によって語られた物語的伝承であること、後漢に入って自作を語る序が成立することを指摘し、その文学史上の意義を論じた。 さらに、以下の2点について、引き続き研究を行った。 1.『史記』における歌謡と物語:項羽の「核下歌」、劉邦の「大風歌」など、『史記』に含まれる歌が、個人の創作としてではなく、物語のひとつの要素としてとらえられるべきことについては、前年度の研究において既に解明し、学術論文としてまとめる段階に入っていたが、その過程で、それが劉邦伝説の結末の理解に大きく関わっていることが明らかになった。そこで、劉邦伝説に引き続く内容をもち、しかも同様に歌を伴って展開する呂后の伝説をも視野に入れて、より大きな視点から論の再構築を行った。 2.自作に序をつけることの文学史上の意義:この問題については、上記論文において既に考察を行ったが、そこに現れる「作者」としての自意識、「作品」「読者」へのまなざしの出現という問題は、文学研究にとって根本的な、大きな問題である。そこで、自序が現れない前漢の文学のあり方、両漢文学の転換点に位置する揚雄の文学史的位置づけにも目を配りながら、新たな考察を行った。 上記2点については、平成21年度中に、学術論文として国内の学術雑誌に発表する見込みである。
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