本年度は、前年度までに遂行した、『史記』における歌謡と物語についての研究を、学術論文として公刊した(『史記』にみえる秦末漢初の歌と伝説)。その際、今年度における研究の進展をもふまえ、歌謡と諺との違いにも言及した。歌謡も諺も、ある物語を伴って、その主題を集約する言葉として伝えられる点は共通するが、『史記』の歌謡は、あくまでそれをとりまく物語が史料として採用される中で引かれるのに対し、諺は、論賛において、太史公自らがある教訓や主張を述べるため、単独で引用される場合があることにふれた。 また、これも前年度までに遂行した、漢代の辞賦と賦序の関係についての研究を、やはり学術論文として刊行した(「賦に自序をつけること」)。ここでは、後漢になって賦の自序が現れることを通して、後人の語る物語の中で伝えられてきた賦が、「作品」としての自覚を持って書かれるようになるありさまを論じた。その際、漢代の辞賦に限らず、古代歌謡や戦国の諸子にも目を配り、ひろく古代文学全体に通用する見取り図を提示するよう努めた。 さらにそれを受け継いで、後漢後期から魏晋にかけての辞賦の伝承について、賦序に着目しながら研究を進め、国際学会で発表し(国際辞賦学学術研討会)、さらに学術論文として刊行した(「漢末魏晋における賦序の盛行」)。この時期には、譜の自序が急増し、やがては序と本文がはじめから相補的に機能するテキストとして制作されるに至る。このような変化の背景として、『詩経』『楚辞』等の文学テキストの整備、別集編纂の始まりなど、文学作品が書かれたテキストの形で受容されるようになった状況を指摘した。
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