私は日本ヘミングウェイ協会資料室長という立場から、送付されてくる論文に目を通している。しかし、驚くのはこうした論文に先行研究を踏まえていないものがいまだに存在するという事実である。斬新な研究論文を書くためにも、また、既成の論文に反論を企てるためにも先行研究に当たってみるということが学問の原点であることを忘れてしまった感さえある。私はこうした現状を見るにつけても、充実した書誌作成は急務であると考えた。 そこで、まず、手始めに、本年度は平成19年にわが国で公表されたヘミングウェイ研究関連の文献を網羅的に当たり、書誌「日本におけるヘミングウェイ研究-2007」を完成させた。ところが、意外にも、目に触れにくいものに大学の紀要等に掲載された論文があった。私はこれを図書館等を歩き、実際現物に当たって確認した。ひとえに、各文献のおおよその内容までもが掴めるものにしたいという狙いがあったからにほかならない。 常々、私は書誌に勝る学問研究の基本的情報源はないと考えている。したがって、今後も引き続き、この作成を手がけていくつもりだが、おそらく、この書誌が将来学生や研究者に及ぼす効果は計り知れないものがあると確信している。ヘミングウェイ研究の最先端を行くアメリカには優れた書誌がある。それを見れば一目瞭然に研究動向がわかる仕組みになっている。しかし、わが国には過去にそのような書誌はなく、じつは、これが今回その作成を行ってみようという着想に至ったそもそもの経緯である。
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