私は学術誌『ヘミングウェイ研究』(日本ヘミングウェイ協会)の選考委員長という立場から、毎年送られてくる多くの論文に目を通している。しかし、時折、先行研究を踏まえていない論文に出くわし、愕然とすることがある。私はこの原因のひとつに書誌の未整理があると考えた。 とはいっても、日本にこれまで全く書誌がなかったわけではない。高村勝治「ヘミングウェイ書誌」『ヘミングウェイ研究』(英宝社、1979年)はそのひとつの例である.しかし、なにぶん古い上に、執筆者とタイトルと雑誌名と発行年だけのデータでは、これから、ヘミングウェイに関する論文を書こうとする学生や研究者にとっては満足のいくものではないだろう。そこで、私は個々の論文やエッセイの内容までもが少しでも掴める、書誌の作成に取りかかった次第なのだ。 日本のヘミングウェイ研究は1999年から2008年に至る10年間に頂点を迎えた。その書誌を今回ひとまずまとめて、公刊しようと決意している。もちろん、これまで通り、単年度ごとの「書誌:日本におけるヘミングウェイ研究」は今後も確実に継続して作成していくし、2008年も公刊した。 書誌作成というのは地味な仕事ではあるが、誰かがどこかで絶対やらねばならない大切な仕事なのである。しかし、単なる文献の羅列なら、前述のごとく、あまり意味はない。この研究は各文献のおおよその内容までもが掴めるものにしたところに特徴があり、意義がある。
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