昨年度、筆者はこれまでにベルギーのルヴァン・ラ・ヌーヴ・カトリック大学図書館に所蔵される古典籍の書誌調査の再検討を行うために、国内に所蔵される同書同版異版本との照合を行い、刊年の確定、印年および修の有無の特定などを行った。 また、これに伴い、この具体的な寄贈書籍の選定に当たって具体的に作業を行ったと考えられる早稲田大学及び小説家幸田露伴を中心にした文化人が寄与していたことを明らかにしえた。当時一橋大学の教授であった露伴の弟である幸田成友、露伴の弟子であった漆山又四郎、また漆山が関係していた早稲田大学、さらには東京専門学校(現早稲田大学)を創立し出版書誌富山房の基礎を作った小野梓などとの関係なども明らかになりつつある。そして、あるいはこれには宮内庁とも深い関係にあった渋沢栄一などの貢献もあったのではないかと考えられる。 こうしたことを史料を渉猟しつつ明らかにし、さらにこの寄贈の根本に第一次世界大戦勃発と同時にわが国が占領した旧ドイツ領中国青島総領部から鹵獲した書物との関係があったこともまた昭和天皇のベルギーへの書籍の寄贈に大きく影響を与えたようである。青島で鹵獲された書物は一九一四年段階でのヨーロッパの最新の刊行物をも含めたものであって、これらが旧帝国大学に寄贈されることによって我が国の学問はさらに発展する大きな契機を与えたものである。つまり、このようなものをドイツから貰い受けたことに対するある種、感謝の意が、このベルギー、ルヴァン大学図書館復興への寄贈という形で行われたのではないかと筆者は考えている。 こうした事情を考慮しながら、グローバルな視点から再度第一次世界大戦と集結後の国際関係および文化の交流、特に書物の動きを考察する研究を行った。
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