本年度、筆者は、ルヴァン・ラ・ヌーヴ・カトリック大学図書館所蔵の和漢書をデータ化しながら、それぞれの書籍の刊行年、修年、印年などの書誌データをさらに詳細にするために、国内の図書館に所蔵される同名の書籍と比較を行った。また、本データを公開するために、書名及び著者名の索引を作成し、そのためのレイアウトを用意した。本図書館の蔵書については、すでに山崎誠氏によって『ルヴァンラヌーブ大学藏日本書籍目録』(勉誠出版2000.05)として発表されているが、書誌データとしての誤りや重要な書誌情報に欠落するところが多い。今回の調査によって、筆者は山崎氏の目録を正し、ルヴァン大学所蔵の古典籍の重要性を書誌的に解明することができた。ところで、現在ルヴァン・ラ・ヌーヴ・カトリック大学図書館に所蔵される日本古典籍は、第一次世界大戦によるドイツのベルギー侵攻に当たってルヴァン大学が攻撃を受け、戦後、大学復興と図書館再建に向けての運動の一環として行われた昭和天皇(当時皇太子)の寄贈によるものである。筆者は、この蔵書の全体像から昭和天皇が寄贈に当たってどのような意図を持っておられたか、またその寄贈する蔵書の収集に早稲田大学とも関係が深かった漆山又四郎とその師である幸田露伴、また露伴の弟で書誌学にも非常に造詣が深かった幸田成友が貢献したことをも確かめ得た。こうしたことは、これまで全く知られていなかった事実であり、幸田露伴を中心としたネットワークを知る上にも非常に大きな意味を持つものと考える。なお、本書のベルギーへの搬送には、日本郵船が利用されフランスのマルセイユを経たことが、昨年のマルセイユでの調査によって明らかになった。筆者はこうしたことをも更に詳細に今後報告していく次第である。
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