本研究の目的は、スペイン国内に残る中国の白話文学作品のうち、特に学術上の価値が高いと判断される文献について、研究者が現地より将来したマイクロフィルムをもとに全文のデータベースを作成し、それをWeb上で公開することにより、広く斯界に新たな資料を提供し、研究の更なる進展を促すための契機を提供することである。その目的を達成すべく、研究初年度にあたる平成19年度から、大学院生の協力のもとに、公開予定文献の整理と漢字データの入力作業を開始し、現時点で「千家詩」及び「雷峰塔」の二作品について作業を完了し、既に自身のホームページ上で全文を公開し、一般の閲覧に供している。残る資料については、現在「龍図公案」「飛龍伝」「説岳全伝」に関する校訂作業を行い、順次公開に向けて詰めの点検を行っているところである。 公開予定資料の中には、作品の全体量が膨大で、加えて、異体字や誤字が頻見されるため、校訂作業に時間がかかり、当初予定していた作業日程よりもかなり多くの日数を要する文献もあり、作業が難航しているが、研究予定期間内には、完全な形とはいえないまでも、一応の作業を終了し、全文のデータベースを公開するつもりである。 本研究によって得られた最大の成果は、これまで未公開となっていた一部の中国古典文献に関して、その全貌を明らかにすることができた点に求めることができ、中国国内で既に失われてしまった貴重な白話文学文献に対して、研究のための基礎資料を提供することができた。これによって、今後ますます、失われた白話文学資料への関心が高まり、海外に流出した中国の古典籍に対する研究も進展を見せるものと期待される。 上記のデータベース公開作業と併行する形で進めてきた、スペイン国内に残る漢籍に関する論考をまとめる作業もほぼ一段落し、2008年には、それらの論考をとりまとめて、『漢籍西遊記』と題する学術論文集を関西大学出版部から刊行し、本研究内容を概ね包括する形で論考を公開することができた。また、関連する成果として、2009年10月に、上海古籍出版社から、スペイン・エスコリアル宮殿内に保管されている『三国志通俗演義史伝』(上下)の翻刻本を出版し、中国国内の人々に対しても失われた白話文学資料の一部を新たに提供した。該書の刊行により、今後ますます、欧州に流出した漢籍に対する関心が深まり、研究も新たな段階に入るものと思われる。
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