本年度は、適用態構文の類型論的変異を把握するため、8つの調査項目((1)適用態標識の諸タイプ、(2)適用態標識が付く動詞の自他、(3)適用態の生産性、(4)適用態が増項を伴うか否か、(5)適用態が引き起こす統語的変化、(6)適用態構文が生起する統語的環境、(7)適用態が統語的に取り立てる語句の意味役割、(8)適用態標識と適用態が取り立てる意味役割の対応関係)に即して、前年度から引き続き調査を行った。 様々な語族の言語の適用態構文の形態統語的特徴を検討する中で、以下のことが判明した。 1. 狭義の適用態構文は、バントゥ諸語、印欧語、コーカサス諸語、マヤ諸語、オーストロネシア諸語、オーストラリア原住民諸語、アメリカインディアン諸語等に広く見られるが、チベット-ビルマ諸語及びモン-クメール諸語には、ごく少数の例外を除くとほとんど見られない。 2. 適用態が語彙化した場合は、使役構文等の他の構文と機能が重複する場合がある。 3. 適用態が引き起こす統語的変化には、直接目的語への取り立て、間接目的語への取り立てに加えて、斜格項への取り立ても含まれる。 4. 適用態が付くのは他動詞につく場合が自動詞につく場合よりも圧倒的に多い。 5. 適用態が取り立てる意味役割については、受益者、道具等が比較的多く見られるが、含意関係を伴うような、はっきりとした傾向は観察されない。 6. 適用態が生じる統語的環境が限られている場合には、関係節化及び主題化を伴うことがある。
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