研究概要 |
「望ましさ」判断などの言語における主観性の働きは,文レベルにおいて観察されるのみならず,また従来のモダリティ研究がその対象としてきたような助動詞,文副詞などにも限られず,よりミクロに語彙や熟語レベルにも関わり,それらの意味解釈に広範に関与しているのではないか?という仮説のもとに研究を行った. 1)フランス語,日本語の比較・程度表現,比較・程度表現起源の熟語に関するデータ収集,2)フランス語,日本語における同語反復文,矛盾文,自明文に関するデータ収集,3)フランス語,日本語,英語における「法・モダリティ・主体性」概念に関する理論的検討を行った. 具体的には,フランス語については;plus ou moins, encore moins, qui plus estなどの比較級形成辞plusやmoinsを含む熟語・構文,直接的な比較級形成辞ではないがやはり主観的尺度に関わると考えられるmeme, voire, jusqu'a, depuis,またmeme si, bien queなどの構文を中心に,考察を行った. 日本語については,「多かれ少なかれ」「大なり小なり」「以上でも以下でもない」「多少」に加えて,「以上」「最高」「最低」,「おまけに」「さらに」「〜よりも」「ちょっと」 「少々」「〜から〜まで」「〜より」,および「ネズミを捕らなくても,ネコはネコだ」型の同語反復文,「こんなオンボロな車は車ではない」型の矛盾文, 「これが音楽だ!」型の自明文,などについて,考察を行った. これらの分析において,「望ましさ」「真実性」「実現要請」などの主観性が通言語的に働いていることが明らかとなったが,その成果について数篇の論文を執筆し,学会で研究発表を行った.
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