研究概要 |
研究最終年度にあたる本年度においては,すでにデータ収集とある程度の分析を行なったフランス語,日本語,英語の比較・程度表現,比較・程度表現起源の熟語,同語反復文,矛盾文,自明文について,補足的なデータ収集と分析を行い,主観性概念,特に「望ましさ」判断の観点から理論的検討を進めた.これにより,主観化は個々の語や文法項目ごとに散発的に観察されるのみならず,同時に複数の辞項や文法価値を巻き込むようなダイナミックな方向性を示す言語現象であること,主観性の基盤として,従来よりモダリティ研究で指摘されてきた「真実性」概念に加えて「望ましさ」概念,「実現要請」概念があること,また,これらの主観性概念が働く場としては,話し手の判断,つまり主観性レベル,のみならず間主体性レベルがあること,またこれらの主観性概念,及びこれらの主観化へと向かう文法化や尺度の主観化もやはりメタファー化による意味拡張とも連動する現象であることを明らかにした. これらの成果を,日本フランス語学会シンポジウム,フランス認知言語学会,日本フランス語フランス文学会ワークショップで研究発表し,議論の中で,従来のモダリティ概念,認知意味論における主体性概念などとの関係について考察を深めた. またこれらの研究成果については,数篇の論文としてすでに発表したが,さらに研究書,および言語学関連の一般向け書籍の出版に向けて,準備を開始する予定である.
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