2009年9月現地調査では前2年の調査よりもタシケント滞在を長くした結果、ウズベキスタンにおけるロシア語をめぐる新たな知見を得ることができた。例えば、同国東部フェルガナ州では経済苦による学校教師の質量両面での低下により甚だしくロシア語教育の質が落ちて若い人々はロシア語を解さなくなっている。しかし最近ではロシア語を解さない者は大学での勉学においても社会生活上も不利であることを同地の若者自身が自覚したため同地にロシア人が設置した「ロシア語センター」が行うロシア語講座に学習希望者が殺到しており、同センターではその全員を受け入れることができず困っているとのことである。ウズベキスタン政府はソ連全面否定の教育と宣伝を行っているが激しいソ連否定プロパガンダを行っていることについてはロシア自体も全く同様であり、上記事実は一時の反露政策を改め、なおかつ現在米国とも距離を置いているウズベキスタンの国民にとって反ソが必ずしも反露やロシア語への反発と結びつかなくなりつつあることを示す現象であると考えることもでき、同国におけるロシア語の将来を考える上で注目に値する。また、ウズベキスタン生まれでロシアへの渡航歴が一切ないロシア人インフォーマントを得ることができたので、柳田自身がこれまでに発見したウズベク人等現地民族のロシア語に共通に現れるシンタクス上の非規範的現象を含む例文を読み聞かせたところ、そのいずれに対しても露骨な嫌悪感を示すことなくしばらく考えてから「私ならこう言う」として合規範的な文を示すという反応が見られた。これはロシアのロシア人の反応とは非常に異なるものであり、リンガフランカとしてのクレオールロシア語を同地のロシア人が当然視していることを示す現象として注目に値する。また、タシケント東洋学大学とキルギス民族教育大学において学部1年次学生のロシア語文法力を測定するためにロシア連邦教育省作成の外国人向けロシア語能力検定試験の筆記試験を課した。現在、その分析を含め、本科研費課題による3年間の現地研究の総括を行っている。
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