研究の最終年度である今年度は、これまで3年間の研究の成果を2つの学術雑誌に掲載することができた。一致現象と等位構造には文法化が関わっていると言われているが、これら2つを関連づける研究はなかった。しかし筆者が文法書を出版した、東インドネシアのラマホロト(Lamaholot)語では等位構造内での一致現象が存在し、これの研究を進めることで、一致現象と等位構造の文法化の統一的な理論的説明が可能になってくるはずだ、という前提で研究を開始した。 Journal of Linguisticsの論文では、ラマホロト語の等位構造における一致現象の記述と理論的分析を行った。この言語では、第1等位語と等位接続語が一致を示す。この一致は主語位置では義務的だが、目的語の位置では随意的である。この分析は格の有標性により行われ、主語の主格は無標だが、目的語の対格は有標であることが、この差を生むとしている。具体的提案としては、無標の格のみがファイ(人称、性、数)素性が一致のホストに複製されることを可能にする、と分析している。等位構造における一致現象はラマホロト語の他にもニューギニアのワルマン語でも観察されるが、比較の結果、文法化の度合いは前者の方が進んでいることがわかった。 English Linguisticsの論文では、ラマホロト語を含め通言語的に観察される随伴語('with')から等位語('and)への文法化を分析した。統語的には、この変化は決定詞句(DP)から等位句(&P)へのラベルの変化と捉えられる。等位現象は統語論の他にも、形態論、意味論の観点から分解され、この分析から、この中の一部だけが随伴語から等位語への変化した例があるはずだ、という予測が成り立つ。この予測は正しいことを、幾つかの言語の例により示した。この意義としては、言語変化は一方向ではなく多方向だということである。
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