研究概要 |
本計画研究では,言語における「省略」現象についてテクスト言語学的な視点から捉えなおすことによって,言語間に観察される「省略の度合い」の差について,その原因を主に言語内的な要因にもとめることによって,統一的な説明を与えることを試みるものである。 本年度は,研究初年度の成果を受け,日独の翻訳テクストの対照について,テクストジャンルを広げながら行った。その際に,「省略」という現象を,文レベルの現象としてではなく,談話状況を含めたテクスト全体の現象であるという観察を行った。これにより,「省略」現象の対照言語学的な分析の際には,各言語の文,テクストの生成に共通した指示のストラテジーというべきものを比較対照することが必要になるという知見を得た。これらの理論的な枠組みについての議論をドイツ各地の研究者と重ねたが,その成果は,2009年3月にミュンヘン大学に提出された博士論文にまとめられた。 また,本年度は,目に見えない,よってコーパス等のデータに現れない「省略現象」の記述のための考察を進めた。この目的で,2009年10月に日本独文学会のシンポジウム「コーパスをめぐって」というテーマでシンポジウムを開催し,日本国内の研究者との議論を深めた。 本年度では,テクスト生成について,母国語話者による文章作成実験を通しての解明を図っていくことを企画していたが,上述した理論的な問題点の解決を図るために,その実現は次年度(21年度)に持ち越されることとなった。
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