第二段階として、「満洲族の華化」と「公用語への指向性」に関わる問題に取り組んだ。 正音は、雍正期、福建語・広東語の話者を対象とした公用語教育のためのもので、音注は南音、語彙は北方という説もあるが、いずれも南京のものであるという説もあり、語彙に関する実態は不明である。そこで正音の語彙を整理し、これまでの研究で蓄積した北京語語彙とこの第二段階で行なう南・北官話との比較対照を通してその実態を解明することを目標とした。研究対象は「正音」に基づく。共通語を教育するようなシステムが無かったため、雍正六年に上諭によって、福建省諸県の「正音書院」設立や、広東省の「粤秀書院」等の書院の支援が行なわれ、教科書として『正音摂要』、『正音咀華』等も編纂された。ただし、清代の正音書は旗人の手によるものが多く、例えば、『正音辨微』道光十七年刊本や『正音咀華』咸豐癸丑刊本を編纂した莎彜尊も旗人である。そのため、語彙分析に際しては、今後、第四段階としての旗人語の研究と合わせて検証する必要が残っている。今年度は、主に次のような手順と方法で研究を進めた。主な資料としては、『正音咀華』、『正音撮要』等を中心に調査を進めた。(1)正音の語彙の性質を体系的に考察し、これまでに収集した北京土語、北方方言等の口語データとの対比も行い、その性質の焙り出しを図った。これにより、(1)使用語彙の性質(2)正音の語彙や語法に対する旗人語の影響や違い等を考察した。また、同じ満洲旗人の手による清末資料章回小説の『児女英雄伝』や、漢語テキスト類『語言自邇集』等からも満州語やその影響を受けたと見られる語彙を収集し対照資料とした。
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