研究全体の最終年度に当たる今年度は、第四段階、第五段階の研究計画に着手した。第四段階としては「政治制度に関わる特殊な階層」と「階級方言の成熟及び通用化」に関わる問題に取組んだ。 概況:清代も時代が下ると政治制度に関わる特殊な階層の言語である旗人語が成熟が見られた。白話文学は、清朝末期から民国初期にかけて発展したが、白話文学作品の中には、高度な言語能力を持つ旗人の手によるものが少なくない。近現代の白話小説に源流を求める現代の普通話の語彙にとっては、そこに含まれる旗人語の研究は重要なものと位置づけられる。旗人語は、北京方言とも異なる様々な要素を含んでおり、満洲語の影響以外にも、明代漢語の南京方言や華北方言の語彙、金代の女真語、元代蒙古語からの借用語、清代東北の漢語方言の影響が見られた。 第五段階は「清朝の政治的統治力の盛衰」と言語の関係に関わる問題について総括的研究を行った。概要:清代は、現代中国語の基礎となる言語が育まれた土壌である。アヘン戦争以降、顕著に満洲族の王朝支配から漢人官僚支配体制へと変貌していくが、これは主要言語の変貌と重なるものであった。少数派が多数派の民族を支配する極めて特殊な環境で、支配者として言語統制という国家統治の基本政策には力を入れたものと考えられる。背景にある社会制度、特に言語政策や教育制度をうぶさに調べ、漢語との相互関係や具体的な言語現象にどのような影響を与えたのかを分析した。漢語資料が内包する使用言語の脈流に沿ってデータを整理し、『大清会典』等の史料から、歴史上の言語政策の道筋を確認した。更に総括として清朝の政治的統治力の盛衰と言語の関係について考察を行った。
|