研究概要 |
本年度の研究実績として,「研究発表」欄に挙げた雑誌論文一篇の内容について以下に要約しておく。 本年度は,古アイスランド語の所有表現のうち,h〓ggva 〓 h〓fu〓 honum ‘hew in head:ACC him:DAT'「彼の頭に斬りつける」といった例のように,前置詞の目的語である名詞句の修飾成分として所有者を表す与格名詞句が現れるものを中心に研究した。データとして,中世アイスランドで書かれた「エギルのサガ」「ニャールのサガ」「グレッティルのサガ」の3作品から用例を収集して検討した。 問題となる表現の「動詞+前置詞+名詞句+与格名詞句」という構成要素について,調査で明らかになったことは,次の点に要約される:(1)前置詞の目的語については,(a)主に身体名称や物の部分を表わす普通名詞が現れ,(b)接尾辞定冠詞がつくのは稀であり,(c)修飾成分が現われる場合は「右」「左」などの限定の表現に限られる。(2)与格名詞句については,(a)代名詞や固有名詞(人名)が多く,(b)形態的・意味的に「定」であり,c修飾成分としては属格名詞の例しかなく,(d)意味的に有生性の高いものが多いが,そうでない例もある。(3)前置詞については,動作の向かう方向や起点を表わすものが多い。 上記の表現の前置詞の目的語の位置に現れる名詞句の種類については特に詳しく検討し,先行研究では単に身体名称・衣類を表す名詞であるとされていたが,本研究では,どのような身体名称が高頻度で現れるかを示すリストを作った。そして,「衣類」の例が実際には極めて少ないことを指摘し,一方で,物(無生物)の部分を表す名詞が現れる場合があることを,実例を挙げて示した。
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