本年度は、前年度からの継続で古アイスランド語の文献収集を行ない、言語データの収集と分析を進めた。また、所有に関する一般言語学的な研究書の購入も行ない、研究動向の調査を進めた。8月下旬から9月上旬にかけては、アイスランドで現地調査を行なった。 古アイスランド語テキストの調査においては、所有者を表わす前置詞句を中心に分析を進めた。その結果、例えばrista a honum kvio-inn 'cut on him:DAT belly-the:ACC'「彼の腹を切り裂く」のように、動作の対象となる身体名称の前にその所有者を表わす前置詞句が現れる例が多いのに対し、lemja sundr hvert bein i honum 'beat asunder each bone:ACC in him:DAT'「彼の骨をことごとく折る」という例のように、身体名称の後に前置詞が置かれる例は極めて少ないことがわかった。現代アイスランド語では後者の表現も頻繁に使われ、この点で傾向が異なるということが指摘できる。 なお、アイスランド滞在中の9月2日に、アイスランド大学において'Transitivity in Modern Icelandic -st Reciprocal Verbs'と題する研究発表を行なった。これはアイスランド語の特定の接尾辞をもつ一連の相互動詞において、それぞれの動詞の意味特徴と構文的特徴の違いに相関があり、そこに他動性の高低が反映されているということを論じたものである。
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