研究概要 |
本研究課題は,カナダのブリティッシュ・コロンビア州クィーン・シャーロット諸島で話されるハイダ語の全体的な文法記述を行なうとともに,言語類型論的な観点からその特質を考察することを主な目的とするものである.今年度は,ハイダ語スキドゲイト方言の話される同諸島スキドゲイトに約1ヶ月間滞在し,話者数名の協力を得て,文法記述に関わる調査を重点的に行なった.現地調査による成果で明らかにし得た点をまとめると,大体以下のようである. 1) 言語類型論的にみて活格型言語に分類されるハイダ語は,活格型言語の通言語的特徴である分裂自動詞性を有するが,ハイダ語においては,[動作性]と[制御性]という2つの意味特徴がその主たる動機付けとなっている点を明らかにした.また,他の活格型言語においては,必ずしもこの2つの意味特徴が重要な要因となっているわけではなく,他の意味特徴(例えば,語彙的アスペクト,意志性など)が動機付けとして大きな役割を果たしていることもあり,活格型言語は,形式的な面での動機付けが弱い(あるいはない)ところに,理論的基盤の確立の難しさがあることを指摘した. 2) ハイダ語は,特に動詞の形態法において複統合的な性格を有するが,複統合性に大きく関わる動詞の接尾辞のそれぞれについて,相対的に自在性の高いものと低いものに分類する可能性を明らかにした.更に,その自在性の度合いは,その接辞の有する機能や意味とある一定の相関関係があることを指摘した. 3) 統語法の基礎資料となるテキストを蒐集し,その分析とデータペース化を図った.
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